サンプラトピックス

【労働×求人NEWS Vol.37】政策やガイドラインもチェック!!

2023 年人事・労務業務の動向、押さえるべきポイント
~2023 年は法改正だけでなく政策やガイドラインのチェックが重要に!~

近年は、働き方改革の影響で法改正が多かったものの、2023 年は「職場の働き方のルール」という意味で
の雇用関係法の法改正数は減少しています。ただし、これは変化が少ないということではありません。逆に
雇用関係の政策の量や内容は増大しています。
ここ数年は、雇用にまつわる法改正が多く、人事・労務業務の動向を押さえるには、法改正の内容を把握
する方法が有効でした。しかし、法改正が一段落した2023 年は、法改正の内容に加え、雇用関係の政策や
ガイドラインも含めて押さえる必要があります。
雇用に関する重要なトピック(話題)が、法改正に留まらず「人への投資」や「ビジネスと人権」など経
済や国際的な政策全般に広がっていることがその理由です。
今後は、厚生労働省だけでなく、経済産業省や法務省等行政全般が発出する情報などから人事・労務業務
の対策を講じていく必要があります。
今月は、すでにパートナーニュースで取り上げてきた内容も併せて、2023 年度、人事・労務業務に係るト
ピックについて紹介していきたいと思います。

1.新しい働き方・働き方改革の進展
(1)中小企業における60 時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ
中小企業においても、月60 時間を超える時間外労働に対する
割増賃金が50%に引き上げられます。大企業へは、すでに2010
年4 月に適用済みでしたが、この改正で大企業・中小企業とも
に50%への引き上げとなりました。
36 協定の限度時間である45 時間を超える時間外労働(特別条
項による時間外労働)については、既に働き方改革関連法の中
で1 年間のうち6 か月以内となり、上限時間も設定されました。
法定労働時間を超える残業は、健康に大きな悪影響があるだけ
でなくメンタルヘルス上の疾患の原因にもなるため、適切に管
理しなければなりません。
<人事・労務管理業務のポイント>
1 か月の時間外労働(1 日8 時間・1 週40 時間を超える労働時
間)の場合は、60 時間以下の割増率は25%以上、60 時間超の割
増率は50%以上となります(右図参照)。
深夜(22:00~5:00)の時間帯に月60 時間を超える法定時間外労働を行わせた場合は、深夜割増賃金率25%
以上+時間外割増賃金率50%以上=75%以上となるため、計算方法が変わることにも注意が必要です。
60 時間を超えた分について、割増賃金の支払いに代えて「代替休暇」という有給の休暇を付与することが
できます。
■勤怠管理システムの整備による労働時間の正確な管理
割増賃金率引き上げに向けて、法律で定められた正しい割増賃金を支払うためには、労働時間を正確に管
理することが、「時間外労働を減らしてワークライフバランスを整える」という働き方改革の観点からも不可
欠です。システムを使って社員の労働状況を可視化し、改善することが有効です。

■業務効率化による労働時間の削減
割増賃金率引き上げに向けて、時間外労働を削減するための取り組みも進める必要があります。法改正を
機に、業務フローの見直しによるムダの削減や、ICT、新しい機械の導入による生産性向上を実現し、働
き方改革を前進させましょう。
(2)男性の育児休業取得率の開示が義務化
育児・介護休業法の改正により、男性の育休取得を
促進させるべく2022 年に「出生時育児休業」が制定さ
れました。
「出生時育児休業」とは、男性が、子の出生後8週
間以内に、最大4週間まで休業することができる制度
をいいます(育児・介護休業法第9条の2第1項)。も
ともと、男性でも、子が1歳になるまで育児休業を取
得することができますが、出生時育児休業は、それと
は別の制度として休業することができる制度です。
こうした法改正を受けて、全企業に努力義務、従業
員数が1,000 人超の企業については義務として、男性の育休の取得率開示が義務化されます。

常時雇用する労働者が1,000 人を超える事業主は、育児休業等の取得の状況を年1 回公表しなくてはなり
ません。具体的には「育児休業等の取得割合」または「育児休業等と育児目的休暇の取得割合」のいずれか
の割合を公表する必要があります。インターネットの利用かその他適切な方法で、一般の方が閲覧できるよ
うに公表することになっています。
※2022 年に新しく開始された出生時育児休業も「育児休業」に含みます。

<育児・介護休業法改正の経緯>
2022 年4 月
・相談窓口の設置など育児休業を取得しやすい雇用環境の整備が義務化
・育児休業制度の説明など、対象者に対して個別の周知と意向確認が義務化
・育児休業取得要件の緩和
2022 年10 月
・産後パパ育休の新設
・育児休業の分割取得が可能に
2023 年4 月 ・従業員1000 人超の企業に育休等取得状況の公表義務化

(3)給与のデジタル通貨払いの解禁
給与(賃金)のデジタル払いが2023 年4 月に解禁されます。給与のデジタル払いとは、企業が銀行の口座
を介さずに、スマートフォンの決済アプリや電子マネーを利用して給与を支払うことです。「〇〇ペイ」とい
う名称の決済サービスが多く存在していますが、これらで給与を送金することが可能になります。
■給与(賃金)のデジタル払いのメリット
メリット① 銀行口座を持っていなくても給与(賃金)の受け取りができるようになる。
例えば、外国人労働者は少子高齢化が進む日本にとって重要な労働力です。しかし、彼らが日本で銀行
口座を開設するのはハードルが高いのが現状です。法改正によってデジタル払いが可能となれば、企業側
も労働者からの要望に対して柔軟に対応できるようになるので、労働力を確保しやすくなりますし、外国
人労働者も活躍できる幅が広がると考えられます。
メリット② 給与(賃金)を受け取る予定だった口座が使えなくなった場合でも柔軟に対応できる。
例えば、急な経営破綻などが起き、想定外のトラブルに巻き込まれる可能性はゼロでありません。こう
いった場合でも給与(賃金)受け取り方法がいくつかあれば安心と言えるでしょう。
■給与(賃金)のデジタル払いのデメリット
デメリット① 振込金額に上限がある。
デジタルマネーの口座は、1 口座につき100 万円までしか入金することができません。そのため、給与
(賃金)の支払い前に毎回口座残高を調整したり、100 万円を超えるときには現金払いに変えてもらうなど
の手間がかかります。
デメリット② 現金化などの対応が必要になることがある。
日常生活のほとんどのシチュエーションでデジタルマネーを利用できるようになってきましたが、公共
料金の支払いなど利用できないものもあります。このような場合は、自身で現金化する必要がありますが
手間や時間もかかります。
<人事・労務管理業務のポイント>
新しい法令であり、全ての企業ですぐに対応が必要ということではありませんが、報道で大きく取り上げ
られることも考えられるため、従業員からの質問に応えるような体制は必要でしょう。実施にデジタル払い
が解禁しても、全従業員がデジタル払いに統一されるわけではなく、当面は今まで通りの方法かデジタル払
いかを選択するようになります。よって、事業者はデジタル払いに対応するとともに、銀行口座の利用も継
続しなければなりません。銀行口座を持たない外国人や短期の労働者への迅速な決済は社会的ニーズとして
大きいため、今後の動向に注意が必要です。

2.人的資本経営の実施(詳細は2023 年2 月のパートナーニュースをご参照ください。)
人的資本経営とは「現代の企業における人材戦略上の重要な内容(=人的資本)を捉え、中長期の課題設
定と解決を経営の軸とし、働きやすく成長する企業を作る、かつ、それを制度的義務や経営目的に応じて開
示する」という経営方法です。2022 年に政策として急速に進められました。
(1)すでに施行されている人的資本に関する情報開示 ※全企業対象 人数要件があるものもある
▼制度開示のうち、雇用関係の法令や制度の改正で定められた事項
・男女・正規/非正規社員の賃金差の開示義務・・・・・・2022 年7 月に府令改正済、開示は今後
・副業・兼業についての情報の開示義務・・・・・・・・・・・2022 年7 月にガイドライン改定済
・男性社員の育児休業取得率の開示義務・・・・・・・・・・・2023 年4 月の法改正
・健康経営と健康情報の情報開示の強化・・・・・・・・・・・義務ではなく任意、方針に沿って実行中
・中途採用比率の開示義務・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2021 年4 月に施行済
(2)有価証券報告者における人的資本関係の情報開示を義務化
金融商品取引法の内閣府令が改正され、2023 年3 月31 日以降の決算期の有価証券報告者において「サステ
ナビリティ」「コーポレートガバナンス」「人的資本」に関する情報記載が義務化されます。
人的資本の項目では、人材の多様性の確保を含む「人材育成方針」と「社内環境整備方針」の記載が求め
られています。多様性の項目では、改正された女性活躍推進法、育児・介護休業法に基づき「女性管理職比
率」「男性の育児休業取得率」および「男女間賃金格差」を公表している会社とその連結子会社に対して、こ
れらの指標を有価証券報告書等に記載することとしています。
<人事・労務管理業務のポイント>
今回決められた項目については、単に数字を開示するだけではなく補足的な説明も事実上必要です。開示
が義務化された項目に関しての具体的な分析や課題設定が重要です。そのため、男女別の活躍やライフイベ
ントに対応する社内環境の整備等、広義のダイバーシティの実態や整備状況を把握しなくてはなりません。
(3)日本企業における人権尊重の強化
企業が取引先を含めたサプライチェーン(供給網)で人権侵害がないか確認し、予防や改善に取り組むこ
とを「人権デューデリジェンス」と呼びます。日本政府は2022 年に企業の対応を促す指針をまとめました。
指針はまず「人権方針」と呼ぶ各企業による取り組みの考え方を作り、経営陣で承認するよう要請したう
えで、企業には①人権侵害を特定し、深刻度合いを評価、②防止と軽減措置、③実効性を評価、④結果開示、
の4 つの手順を定期的に繰り返すよう求めています。
経済産業省は企業が事業活動をする際に人権を尊重する取り組みを促します。具体的には、事業分野・製
品・地域・企業固有のリスクの4 つの観点から人権侵害がないかの確認をするよう企業に呼びかけます。
事業分野は国連環境計画・金融イニシアチブが定めた10 業種で注意すべき項目を指摘します。漁業で人身
取引による労働がないか、化学・医薬品で危険な化学物質にさらされていないかなどを挙げています。
リスクの高い製品は、コーヒーやパーム油などの農産物、衣料品、鉱物を例示しています。
地域別で懸念が強い国はソマリアなどアフリカが多くなっています。ユニセフが作成した児童労働のリス
ク指数に基づき示されています。
「企業固有のリスク」で指摘するのは、これまで指針でとりあげた10 の侵害リスクです。強制・児童労働
や宗教・性別による差別、賃金未払いなどに言及しています。侵害のリスクの有無を確認し、どの案件から
優先して対応すべきかを順位付けするように要望しています。

最低賃金 目安4 区分から3 区分に再編成
~地域間格差を是正し、日本全体の賃金の底上げに!~
■最低賃金とは
企業が従業員に支払うべき最低の賃金額で都道府県別に時給
あたりで示されます。パートタイムや嘱託など雇用形態に関わら
ずすべての労働者に適用されます。最低賃金法が最低賃金以上の
賃金を支払わなければならないと定めており、労使が最低賃金よ
り低い金額で合意しても無効となります。企業側が最低賃金未満
しか支払わなかった場合は、最低賃金との差額を払う必要があり、
罰金も科されます。
2022 年度はランクによって引上げ目安額が30~31 円でした。
全国加重平均の引き上げ幅は31 円(引き上げ率3.3%)で、1978
年度に目安制度が始まってから最も高い水準となりました。
日本全体の賃金引上げに向け最低賃金の重要性が高まってお
り、安倍政権下だった16 年度からは新型コロナウイルス感染拡
大の影響が強かった2020 年度を除いて毎年3%超の上げ幅が続い
ています。
一方で、人手不足が深刻になる地方と首都圏などとの最低賃金
の格差は課題になり、厚生労働省はランク制度の見直しを考えて
いました。
■2023 年度から最低賃金のランク分けを変更
中央最低賃金審議会は、毎夏、最低賃金の引き上げ目安額を決め、各都道府県で秋に適用しますが、4 月6
日の審議会で、引き上げの目安を示す区分(ランク)を現行の4 つから3 つに減らすことを決定しました。今
夏に決める2023 年度から3 区分制に切り
替わります。
2022 年度は最も高い東京都の時給は
1072 円で最も低い沖縄県などは853 円、
219 円という差は2002 年度に比べると2
倍以上に広がりました。賃金格差拡大は
地方の人材流出を招き、すでに人員確保
に苦しむ地方が一段と厳しい状況に陥っ
ています。
これに歯止めをかけるために3 区分制
を導入した上で経済指標だけでなく各地
の労働者数も加味して区分を決めます。3
区分制ではAは東京など6 都道府県で変
わりませんが、Bには北海道や岡山県、
福岡県など現行制度でCだった自治体が入り、3 区分制のBは28 道府県とA~Cで最も多く、労働者数ではA
とBで全体の9 割を占めるため賃金水準は押し上げられる見込みです。
なお、岸田首相は、3 月に開いた政労使の代表による会議で、最低賃金の全国加重平均を22 年度の961 円か
ら4%高い1000 円に引き上げる目標に言及しています。

[2023年4月25日]