「試用期間
中だから簡単に 解雇 できる 」 の誤解~
試用期間中の社員を、重大な問題がないのに解雇!その場合、不当解雇の恐れが!
4 月に新卒社員が入社してきた会社も多いことと思います。新しい人材を採用する場合、従業員としての適正が
あるかを見極めるために試用期間を設ける会社が多く、会社は、この試用期間中に、労働者の能力やスキル、勤
務態度等を 確認し、本採用するかどうかを判断します。試用期間中に、労働者の仕事への適正が欠けていること
がわかった場合、使用者としては、試用期間中に解雇、本採用の拒否をせざるを得ない場合があります。
その際、「試用期間中だから簡単に解雇できる」と思っている方が多いようで、解雇を巡るトラブルが後を絶ち
ません。今月は、試用期間に焦点をあて、解雇や本採用拒否が可能であるか、それらを行うときの注意点につい
て考えてみたいと思います。
1.試用期間とは?
試用期間とは、 採用した労働者を本採用する前に、その労働者が自社の業務を行えるだけの能力や適性を
備えているかを確認、見極めるための期間です。選考期間だけで企業が期待しているパフォーマンスをあげ
られるか、自社の風土になじめるかを見極めることは難しく、実際に業務に携わってもらうことでお互いに
適性を見極める期間ともいえます。
試用期間は 必ずしも設けなければならないというものではありませんが、 3 か月から 6 か月程度の期間で設
定している企業が多いようです。
2.試用期間の労働契約
試用期間中の労働者であっても、労働契約を締結して雇用することになります。
■労働条件明示に当たって遵守すべき事項
平成 30 年 1 月 1 日より募集・求人時に最低限明示しなければならない労働条件として、試用期間の有無
(ある場合は期間)が追加されました。
<記載例 試用期間:試用期間あり( 3 か月)
【他に追加された事項】
・裁量労働制を採用している場合のみなし労働時間を明示すること
・固定残業代を支給している場合に「基本給」「手当名と金額」「〇時間を超える時間外労働についての
割増賃金の追加支給の旨」を明示すること
・求人募集者の社名又は名前を明示すること
・派遣労働者を雇用する場合においては、雇用形態を派遣労働者と明示する
こと
・受動喫煙防止措置の状況
(2020 年 4 月 1 日より追加
また、職業安定法に基づく指針では、有期労働契約が試用期間としての性質を持つ場合、試用期間となる
有期労働契約期間中の労働条件を明示しなければならないとしています。また、試用期間と本採用が一つの
労働契約であっても、試用期間中の労働条件が本採用後の労働条件と異なる場合は、試用期間中と本採用後
のそれぞれの労働条件を明示しなければなりません。
試用期間中の
労働契約については通常の労働契約ではなく、「解約権 留保付労働契約」を労働者と締結して
いると考えられています。
「解約権留保付労働契約」
とは、簡単にいうと使用者に特別な解約権が与えられている労働契約をいいま
す。判例によれば、通常の労働契約よりも広く解雇(解約権の行使)の自由が認められている労働契約とさ
れています。
このことから、「試用期間中は、簡単に解雇できる」という誤解が生じるのかもし
れませんが、本採用と同
様に、単に「企業の風土と合わない」 、「仕事を覚えるのが遅いから」、「陰気だから」 など客観的な合理性の
ない漠然とした理由や、欠勤が 1 日あっただけで勤怠不良とみなすなど、社会通念上、正当と認められない
理由で、一方的に解雇することはできません。
【試用期間中の解雇・本採用の拒否】
前述のように、試用期間中の解雇は、通常の解雇に比べて広範囲で認められていますが、たとえ試用期間
中の労働者であったとしても、正当な理由がなければ解雇が認められないことに変わりはありません。
例えば、「性格が暗いか ら」「仕事を覚えるのが遅いから」「自社の社風・風土にあわないから」等といった
漠然とした理由では解雇することはできません。特に、採用直後の試用期間については、指導によって改善
できる可能性があるため、解雇の有効性は厳しく判断されます。試用期間満了時における本採用拒否も解雇
にあるため、漠然とした理由では認められない可能性があります。
3.試用期間中の解雇が不当とみなされた裁判例
【東京地方裁判所
平成 27 年 1 月 28 日判決 有限会社X設計事件】
この裁判例は、設計画面の作成等の業務に従事していた原告が、試用期間中に、能力不足や勤務態度の不
良を理由に解 雇されたため、解雇の効力等が争われた事案です。
裁判所は、原告が当初作成した図面に問題があったことは認めましたが、修正した図面に大きな問題はな
かったため、「基本的な設計図面の作成能力がない」という被告の主張を認められませんでした。また、原告
の行動が原因となって契約を打ち切られたという被告の主張についても、根拠が乏しいと指摘しました。
さらに、原告の勤務態度を問題だとする被告の主張についても、勤務態度が不良だったとまでは言えない
として、留保解約権を行使する理由の存在を認めず、解雇を無効としました。
一般 に、試用期間中の労働者を、能力不足を理由として解雇するのは極めて難しいといえるでしょう。理
由は、以下の通りです。
・そもそも能力不足を客観的に証明することが難しい。
・使用者としては、能力不足は指導することで解消すべきであり期間満了までは根気強く指導等を行うべ
きだという発想が強い。
4.試用期間中の解雇が認められる事案
試用期間中の解雇(解約権の行使)が認められる要件は、試用期間の趣旨・目的に照らして客観的に合理
的な理由があり、それが社会通念上相当と認められることです(三菱樹脂事件) 。
これらの要件を満たす具体例として、以下のよ うなものがあげられます。
・重大な経歴詐称を行っていた
・正当な理由なく遅刻・欠勤を繰り返す
・勤務態度が極めて悪く、何度も指導・教育したにもかかわらず改善されない
・社員の立場を利用した犯罪(業務上横領等)を行った
・私生活において、極めて重大な犯罪を行った
ただし、これらの言動について、必ず解雇が認められるわけではありません。
試用期間中は通常の解雇よりも幅広い範囲で解雇の事由が認められているとはいえ、採用している以上、
正当な理由がなければなかなか解雇はできません。それでも、解雇 に相当する正当な理由として試用期間中
の解雇が認められるケースがあります。
(1)勤務態度が著しく悪い場合
上司の指示に一切従わないなど、試用期間中の勤務態度が 極めて悪いケース では解雇が認められます。と
はいえ、試用期間中の解雇でも、「客観的に見て解雇に合理性があり、社会通念上解雇が相当だと認められる」
レベルでのみ許されるといえます。
職場での指示にまったく従わなかったり、正当性なく反抗的な態度をとったりするなど職場の規律を乱す
ようなケースであれば、解雇が認められる可能性は高くなります。
(2)
正当な理由の ない欠席や遅刻を繰り返す場合
決められた始業時刻を守って勤務を行うのは社会人として最低限守るべきルールです。そのため、体調不
良や交通機関の遅延などの正当な理由なく遅刻や欠席を繰り返す場合、社会人としての最低限のルールを守
る認識がないと判断できるため、解雇が認められる可能性があります。
(3)健康上の理由で就業困難になった場合
病気などの健康上の理由によって就業に耐えられない状態になった場合は、試用期間中でなくても普通解
雇として解雇が認められるケースがあります。ただし、就業規則としてその旨を記載している必 要があるた
め、多くの会社では就業規則の解雇事由に精神や身体の障害によって業務に耐えられない場合に解雇できる
ように記載されています。 自社の就業規則をご確認ください。
(4)職務経歴書などに経歴詐称があった場合
採用時には労働者は履歴書や職務経歴書などでこれまでの経歴を自己申告することになります。しかし、
その内容に虚偽があれば、もともと採用にあたって企業が求めていた人材やスキルを満たしていない可能性
があります。そのため、特に故意に経歴を詐称していた場合は、試用期間中でも解雇が認められる可能性が
高 くなります 。
■試用期間中の解雇事例(裁判例)
ある企業は、当該企業が販売する商品の発送業務、商品発表会の案内を全国の顧客にファックス送信する
業務を行うことを期待して採用した者を、 3 か月の試用期間中に勤務状況を理由として解雇しました。
裁判所は、①緊急の業務指示に対し、他に急を要する業務を行っているわけでもないのに、これに速やか
に応じない態度を取ったこと、②採用面接時にはパソコンの使用に精通しているなどと述べていたにもかか
わらず、パソコンの使用経験のある者にとって困難な作業ではないファックス送信を満足に行うことができ
なかったこと、③代表取締役の業務指示に応じないことがあったこと、これらの事実関係などを考慮して、
企業の行った解雇を有効と認めました。
業務指示に従わない姿勢が顕著であったり(①、③)、採用時に期待された能力からすれば容易に遂行でき
る業務ができなかったりした(②)ため、試用期間中の解雇が有効と認められた事案です。
5.試用期間中の解雇手続き・手順とは
(1)明示された解雇事由に適合しているかの確認
就業規則に解雇事由を明記する ことが定められているので、今回の解雇事由が自社の就業規則に記載され
ている解雇事由に該当するか確認しましょう。
(2)解雇予告の有無
試用期間中の解雇に当たっては、採用からの期間の長さによって解雇予告が必要な場合と、不要な場合が
あります。
①試用期間から 14 日を過ぎて解雇する場合
試用開始から 14 日を過ぎて解雇する場合は、 30 日以前に解雇予告をする必要があります。解雇予告を
しない場合は、解雇予告手当に相当する金額を支払う必要があります。
②試用期間が 14 日以内に解雇する場合
使用開始から 14 日以内の場合は、解雇予告は不要です。ただし、短期間で解雇する場合は勤務態度が
不良と判断しても、期間的に短くまだ まだ改善の余地があると考えられるケースが多く、理由の正当性
が問われます。
(3)解雇通知書
解雇予告は口頭でも有効ですが、口約束では後々トラブルの原因となるので、解雇する日と具体的理由を
明記した「解雇通知書」を作成することが望ましいでしょう。
解雇理由については、客観的に明確にし、客観的に解雇せざるを得ないことを証明できるようにする必要
があります。例えば、繰り返し注意したにもかかわらず業務態度が改善されなかったことがわかるように始
末書やメールなどを残しておくようにしましょう。
企業の人材確保・定着に役立つ3つの認定制度 (えるぼし・くるみん・ユースエール について
「〇〇省認定」 「□□マーク取得」といったように、世の中には特定な分野に対して優良な企業を認定する
ための制度が存在します。取得すれば、従業員が働きやすい職場環境づくりや、自社の強みをステークホル
ダーや求職者にアピールすることにつながるので、企業にとってメリットになります。
今回は、認定制度のうち厚生労働省の 3 つの認定制度をご紹介します。企業の魅力向上や人材確保・定着
などに役立てていただきたいと思います。
1.企業の人材確保・定着に役立つ
3 つの認定制度
■えるぼし認定制度
<女性活躍推進
「女性活躍推進法」に基づく認 定制度。 一般事業主行動計画の
策定・届出を行った事業主のうち、女性の活躍促進のため取り組
みの実施状況が優良な企業を厚生労働大臣が「えるぼし認定企
業」や「プラチナえるぼし認定企業」として認定します。
えるぼし認定は、平成 28 年( 2016 年)から開始され、令和 5 年 4 月末時点で 2,204 社の企業が認定
されています。プラチナえるぼし認定は、令和 2 年( 2020 年)から開始され、令和 5 年 4 月末時点で 38
社の企業が認定されています。えるぼし認定を受けた企業は、女性活躍企業としてPRできるようにな
り、優秀な人材の確保や企 業のイメージアップにつながります。
■くるみん認定制度
<子育てサポート
「次世代育成支援対策推進法」に基づく認定制度。 くるみんマークは、「次世代
育成支援対策推進法」と呼ばれる、少子化対策や子育て支援に関係する法律に基づ
いて認定基準が設けられています。一定の基準を満たした企業には、厚生労働大臣
から「子育てサポート企業」とし「くるみん認定企業」「プラチナくるみん認定企
業」「トライくるみん認定企業」として認定されます。不妊治療と仕事の両立支援
に取り組む企業を認定する「プラス」認定制度も始まりました。
■ユ
ースエール認定企業 <若者の採用・育成
「若者雇用促進法」に基づく認定制度。 若者の採用・育成に積極的で、若者の雇用管理
の状況などが優良な中小企業を厚生労働大臣が認定する制度です。ユースエール認定を受
けることで、ハローワークをはじめとした就職支援において自社のPRや、認定マークを
自社の商品や広告に使用することができます。 また、厚生労働省が運営する、若者雇用促進法に基づい
て職場情報の提供を行う企業の情報を検索できるデータベース「若者雇用促進サイト」にも、企業情報
を掲載することが可能になります。
2.企業が認
定制度を取得するメリット
(1)働きやすい職場を提供できる
制度の多くは、従業員の働く 環境に関係する基準を設けているため、従業員が働きやすい職場環境を
整えなければ認定を取得できません。企業が制度の取得を目指して働く環境を見直すことで、結果的に
従業員へ働きやすい職場環境を提供することにつながります。
(2)人事・採用面で効果がある
企業認定制度の多くは、オリジナルのマークやロゴが設定されていて、制度を取得した企業は定めら
れた範囲内でマークやロゴを使用できます。認定制度のマークやロゴを使用することは、就活中 の学生
や求職者、消費者に向けて、自社の活動や特徴のアピールに役立ちます。くるみんマークであれば「女
性が働きやすい職場」、ユースエール認定であれば「若者の採用に積極的な企業」など、企業の特徴をマ
ークやロゴを通して伝えられるのです。
[2023年6月25日]