~厚生労働省は、「令和4 年度都道府県労働局雇用環境・均等部(室)における、育児・介護休業法に関する相談、是正指導の状況について」を公表しました~
育児・介護休業法の施行状況
(1)相談の状況
- ◆ 相談件数は 115,006 件(対前年度比 35.2%増)
- ◆ 育児関係の相談が、94,443 件(82.1%)、介護関係の相談が 15,483 件(13.5%)
- ◆ 育児関係では「育児休業」が 70,868 件(75.0%)、「育児休業以外(子の看護休暇、所定労働時間の短縮の措置等など)」が 13,805 件(14.6%)、「育児休業に係る不利益取扱い」が 5,116 件(5.4%)の順になっている。
- ◆ 介護関係では、「介護休業」が 7,998 件(51.7%)、「介護休業以外(介護休暇、所定労働時間の短縮の措置等など)」が 5,892 件(38.1%)、「介護休業等に関するハラスメントの防止措置」が 896 件(5.8%)の順となっている。
- ◆ 契約期間の定めのある労働者からの相談内容をみると、「育児休業」が 1,237 件(65.4%)、「育児休業に係る不利益取扱い」が 400 件(21.2%)、「介護休業」が 223件(11.8%)、「介護休業に係る不利益取扱い」が 30 件(1.6%)となっている。
【育児休業に関する具体的な相談内容】
・第5条関係(育児休業の申出)
労働者は、その事業主に申し出ることにより、 育児休業をすることができる。
・第10条関係(育児休業に係る不利益取扱い)
事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない。
(不利益取扱いの例)
・解雇すること ・期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと
・派遣労働者として就業している者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供
を拒むこと 等
(2)是正指導の状況
◆ 4,458事業所を対象に雇用管理の実態調査を行い、このうち何らかの育児・介護休業法違反が確認された3,835事業所(86.0%)に対し、14,791件の是正指導を実施した。うち育児関係は7,582件、介護関係は5,677件。
◆ 指導事項の内容は、育児関係では、「第25条関係」が1,606件(21.2%)、「第5条関係」が1,563件(20.6%)、第22条第1項関係」が、1,461件(19.3%)となっている。
【育児休業に関する具体的な指導内容】
・第25条関係(休業等に関するハラスメントの防止措置)が1,606件(21.2%)。
<第25条関係(休業等に関するハラスメントの防止措置)とは?>
事業主は、育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する制度又は措置の利用に関する言動により、労働者の就業環境が害されることがないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。事業主が講ずべき措置の内容については、以下のように定められている(指針第2の14(3))。
- ①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
- ②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。また、相談窓口担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。
- ③職場における育児休業等に関するハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
- ④職場における育児休業等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置
- ⑤相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知すること。
- ⑥相談したこと、事実関係の確認等の事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと等を理由として解雇その他の不利益取扱いを禁止する。
※第5条関係(育児休業)が1,563件(20.6%)。
<第5条関係(育児休業)とは?>
育児休業の申出:労働者は、その事業主に申し出ることにより、育児休業をすることができる。 (参考)
第6条:事業主は、労働者からの育児休業申出があったときは、当該育児休業申出を拒むことができない。
・第22条第1項関係(雇用環境整備)が1,461件(19.3%)。
<第22条第1項関係(雇用環境整備)とは?>
事業主は、育児休業及び産後パパ育休の申出が円滑に行われるようにするため、次のいずれかの措置を講じなければならない。
- ①雇用する労働者に対する育児休業に係る研修の実施:すべての労働者に対して研修を実施することが望ましいが、少なくとも管理職の者については研修を受けたことのある状態にすべき。
- ②育児休業に関する相談体制の整備:相談体制の窓口の設置や相談対応者を置き、これを周知する。窓口を形式的に設けるだけでは足らず、実質的な対応が可能な窓口を設けること。
- ③雇用する労働者の育児休業の取得に関する事例の収集・提供:自社の育児休業の取得事例を収集し、当該事例の掲載された書類の配布やイントラネットへの掲載等を行い労働者の閲覧に供すること。
育児・介護休業法改正のポイント ~令和4年4月1日から3段階で施行~
男女とも仕事と育児を両立できるように、産後パパ育休制度(出生時育児介護休業制度)の創設や雇用環境整備、個別周知・意向確認の措置の義務化などの改正が行われています。
雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化(令和4年4月1日施行)
(1)育児休業を取得しやすい雇用環境の整備
育児休業と産後パパ育休の申し出が円滑に行われるようにするため、事業主は以下のいずれかの措置を講じなければなりません。 ※複数の措置を講じることが望ましいとされています。
- ① 育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
- ②育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
- ③自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
- ④自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
(2)妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対して、事業主は育児休業制度等に関する以下の事項の周知と休業の取得意向の確認を、個別に行わなければなりません。
※取得を控えさせるような形での個別周知と意向確認は認められません。例えば、取得の前例がないことをことさらに強調することなどが考えられます。なお、取得の申出をしないように威圧する、申し出た場合の不利益をほのめかすといった、職場における育児休業等に関するハラスメントに該当する様態も含まれます。
周知事項 |
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個別周知・意向確認の方法 |
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※(1)雇用環境整備、(2)個別周知・意向確認とも、産後パパ育休については、令和4年10月1日から対象
産後パパ育休(出生時育児休業)の創設、育児休業の分割取得(令和4年10月1日施行)
産後パパ育休(R.4.10.1~)育休とは別に取得可能 | 育児休業制度(R.4.10.1~) | 育児休業制度(改正前) | |
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対象期間 取得可能日数 |
子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能 | 原則子が1歳 (最長2歳)まで |
原則子が1歳(最長2歳)まで |
申出期限 | 原則休業の2週間前まで | 原則1か月前まで | 原則1か月前まで |
分割取得 | 分割して2回取得可能 (初めにまとめて申し出ることが必要) |
分割して2回取得可能 (取得の際にそれぞれ申出) |
原則分割不可 |
休業中の就業 | 労使協定を締結している場合に限り労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能 | 原則就業不可 | 原則就業不可 |
1歳以降の延長 | —— | 育休開始日を柔軟化 | 育休開始日は1歳、1歳半の時点に限定 |
1歳以降の再取得 | —— | 特別な事情がある場合に限り再取得可能 | 再取得不可 |
3.育児休業取得状況の公表の義務化(令和5年4月1日施行)
従業員数1,000人超の企業は、育児休業等の取得の状況を年に1回公表することが義務付けられます。公表内容は、男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」です。自社のホームページ等のほか、厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」で公表することもできます。なお、厚生労働省では、公表が義務付けられる企業の規模を「300人超」とする方向で検討しています。
~中央最低賃金審議会、令和5年度地域別最低賃金額改定の目安について厚生労働大臣へ答申~
2023年度の最低賃金の目安が全国平均ではじめて1000円を超える
中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)は、7月28日、2023年度の最低賃金の目安を全国平均で時給1002円にすると決めた。1000円を超えたのは初めてで、現在の961円から41円増え、上げ幅は4.3%で1991年度以来の水準で過去最大となる。それでも国別にみると低いことがわかる。
【国別最低賃金(23年6月時点)】
米国(カリフォルニア州) | 2,091円 |
ドイツ | 1,749円 |
イギリス | 1,733円 |
フランス | 1,679円 |
韓国 | 1,001円 |
日本 | 961円 |
最低賃金引き上げによる影響
(1)求人内容の変更(募集時の賃金に注意)
改定された最低賃金を把握しておきながら、改定前と変わらない賃金で求人を出してしまい、「実は下回っていた」ということがあるかもしれない。事例としては、研修や試用期間中の賃金など通常の賃金と異なる場合。本採用に対して差を設けた分が最低賃金を割ることになれば違反にあたる。高校生の給与も同様で、あらためて求人内容に不備がないようにすることが大切。
(2)求職者や現スタッフの動きの変化に注意
最低賃金の引き上げによって、新規に採用する人と勤続年数の長い従業員の賃金があまり変わらないことになれば、後者のモチベーション低下が懸念される。その結果、賃金の高い他社に流れるなど離職につながる恐れも出てくる。まずは、スタッフ間で不公平感を生み出さないような対策が必要となる。
(3)採用難易度の上昇
最低賃金が上がれば転職を希望する求職者は増えると考えられる。しかし、それは他社との人材獲得競争が激化する可能性が高まることが予想される。とりわけ人手を大量に必要とする業種や、アルバイト・パート従業員を多く抱える企業では、その影響は大きく及ぶものとみられる。にもかかわらず、求職者の賃金に対する期待に応えることを優先し、就業しているアルバイト・パートの賃金に配慮することができなければ、採用活動は苦戦を強いられることになる。
最低賃金引き上げに際して企業ができる対策
(1)給与による待遇改善
他社との人材獲得競争においては、時給で勝負することも想定される。さらに人材流出を防ぐためにも(スタッフ間で不公平感を生み出さないためにも)今いる従業員の給与をあげることも大切。その際、単に給与額を増やすだけでなく、給与体系の見直しも含まれる。具体的には、「パフォーマンスに応じた報酬を設ける」「キャリアパスに応じた昇給制度を整備する」なども考えることが必要。
(2)給与以外による待遇改善
福利厚生の充実やワークライフバランスの推進、職場環境の改善、キャリア開発の支援などの取り組みも、従業員一人ひとりの満足度や全体の士気を高め、結果的には生産性の向上や採用強化にも寄与する。
(3)福利厚生の充実
健康診断の充実、子育て支援制度、教育研修制度などがあげられる。
[2023年8月25日]