人口が減る日本で「働き手確保」について考える!
経済協力開発機構(OECD)は1月11日、2年に一度の対日経済審査の報告書を公表しました。その中で、人口が減る日本で働き手を確保するための改革案として以下項目について提言しました。
OECDは「Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構」の略で、本部はフランスのパリに置かれ、その目的は、先進国間の自由な意見交換・情報交換を通じて、1)経済成長、2)貿易自由化、3)途上国支援(これを「OECDの三大目的」といいます)に貢献することとされています。
◆年功序列賃金からの脱却
◆年収の壁など就労控えを招く制度の廃止
◆同一労働・同一賃金の徹底
◆非正規労働者の被用者保険の適用拡大
OECD(経済協力開発機構)はヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38ヶ国の先進国が加盟する国際機関で、国際マクロ経済動向、貿易、開発援助といった分野に加え、最近では持続可能な開発、ガバナンスといった新たな分野についても加盟国間の分析・検討を行っています。
最新の「OECD対日経済審査報告書」による今後の日本経済
OECDでは、日本経済は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックから回復したものの、世界貿易の見通しの弱さから、新たな課題に直面しています。財政の持続可能性の確保と生産性の向上、そして急速に進む人口高齢化による経済的・社会的影響への対処に、今こそ政策の焦点を当てるべき時であると指摘しています。
日本のGDP成長率は、世界的な不確実性が外需の重しとなる一方、主に内需によってけん引され、2023年の1.9%成長の後、2024年は1.0%、2025年は1.1%と着実に伸びるとみられています。消費者物価上昇率は、賃金の伸びが勢いを増すことから、2023年の3.2%から2024年には2.6%まで緩やかに下落し、2025年には2.0%で安定すると予想されています。
OECD事務総長は、「パンデミックが起きた頃、日本は広範な構造改革を進めていた。これらの改革により、女性や高齢者の労働参加率が高まり、日本経済のパンデミックからの回復が支えられるといったプラスの効果がもたらされている。しかし、急速な人口構造の変化は、ますます公共予算を圧迫している。こうした将来の支出圧力に備え、また将来のショックに対する回復力を高めるためにも、債務の持続可能性を確保する改革が必要である。生産性の伸びを回復させることは、イノベーションの促進及び減少する労働力のより有効な活用により、成長を高め、人口問題に対処する上で重要である。」と述べています。
働き手の確保にかかわるOECDの提言
(1)定年廃止による高齢者就労の底上げ
厚生労働省の2022年の調査によると、日本企業の94%が定年を設けていますが、OECD加盟38か国のうち、日本と韓国だけが60歳での定年を企業に容認しています。米国や欧州の一部は定年を年齢差別として認めていません。OECDは、定年退職や年功序列賃金などの日本的な労働慣行は、急速な高齢化の状況ではもはや適切ではなく、定年廃止を念頭にさらに定年を引き上げ、働き方改革における同一労働同一賃金規定の全労働者への適用を図るべきと提言しています。
<日本の現状の対応>
「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年齢者雇用安定法」」においては、65歳までの雇用の確保を目的として、「定年制の廃止」や「定年の引上げ」、「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を、講じるよう企業に義務付けています。
加えて、70歳までの就業機会の確保を目的として、「定年制の廃止」や「定年の引上げ」、「継続雇用制度の導入」という雇用による措置や、「業務委託契約を締結する制度の導入」、「社会貢献事業に従事できる制度の導入」という雇用以外の措置のいずれかの措置(高年齢者就業確保措置)を講じるように努めることを企業に義務付けています。
Ⅰ 65歳までの高年齢者雇用確保措置の実施状況
65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施済みの企業は99.9%[変動なし]
・高年齢者雇用確保措置の措置内容別の内訳は、「継続雇用制度の導入」により実施している企業が67.7%[1.4ポイント減少]、「定年の引上げ」により実施している企業は27.9%[1.4ポイント増加]
Ⅱ 70歳までの高年齢者就業確保措置の実施状況
70 歳までの高年齢者就業確保措置を実施済みの企業は 27.8%[0.9 ポイント増加]
・中小企業では28.3%[0.8ポイント増加]、大企業では20.7%[1.9ポイント増加]
Ⅲ 企業における定年制の状況
65歳以上定年企業(定年制の廃止企業含む)は32.2%[1.3ポイント増加]
Ⅳ 66歳以上まで働ける制度のある企業の状況
① 66歳以上まで働ける制度のある企業の状況
66歳以上まで働ける制度のある企業は41.6%[2.3ポイント増加]
② 70歳以上まで働ける制度のある企業の状況
70歳以上まで働ける制度のある企業は40.0%[2.2ポイント増加]
マティアス・コーマン事務総長は、1月11日の会見で「働き続ける意欲が定年制で失われている」と強調しましたが、定年制の抜本的な対策は、政府の公の議論の俎上には載っていません。
労働人口が減少する中、企業は、自社で高年齢者をどのように戦力として活用できるかを真剣に考えなければならない時期にきているのではないでしょうか。
(2)年功序列賃金からの脱却
「ジョブ型雇用」を導入する企業が増える傾向にあります。パーソル総合研究所の2021年の調査では、従業員規模300人以上の日本企業において、ジョブ型人事制度をすでに導入している企業の割合は18.0%。導入を検討している企業の割合は39.6%。一方で、導入しない方針としている企業の割合は28.5%と3割程度でした。
企業属性別にみると、従業員数が多かったり、子会社を抱えるグループ企業であったりするなど、企業規模が大きくなるほどジョブ型の導入・検討の割合が高くなる傾向にあります。また、海外拠点があり、グローバル展開している企業の方がジョブ型の導入済み・導入検討の割合が高くなっています。
政府の新しい資本主義実現会議では、高齢者がスキルに見合った待遇を受けられることも念頭に、ジョブ型導入の事例集の作成を急いでいます。
(3)年収の壁など就労控えを招く制度の廃止
日本の就業者数は今後急速に減少します。OECDは2023年に外国人も含めて6600万人程度と推計しています。出生率が足元の水準に近い1.3が続けば、日本の就業者数は、2100年に3200万人に半減します。
OECDは、対策として、高齢者や女性、外国人の就労底上げなどの改革案を実現すれば出生率が1.3でも2100年に4100万人の働き手を確保できると見込んでいます。
(4)同一労働同一賃金の徹底
■フルタイム・パートタイム労働者の待遇格差の現状
欧米の職種別労働市場では、同じ仕事をする人を性別、年齢、人種、宗教等によって賃金に差をつけることは、差別に当たるとして禁止されています。人権保障だけでなく、労働者の利益の観点でもとらえられているものです。
EU諸国では、フルタイム社員とパートタイム社員が同じ仕事をしている場合、1時間あたり同じ賃金を支払う「均等待遇」を「EU指令」によって加盟国に義務付けています。
たとえばドイツでは、パートタイム労働者の時間あたり賃金がフルタイム労働者の8割となっています。フランスでは9割とほぼ正規雇用者に近い水準と言えます。一方日本では6割弱になっており、正規・非正規間の格差が大きいことが一目瞭然です。
(5)非正規労働者の被用者保険の適用拡大
OECDは、女性の就労促進のため、年収が一定額を超えると手取りが減る「年収の壁」をなくすよう提起しました。女性の働き手に占める非正規の割合は5割と、男性の2割に比べて高くなっています。第3号被保険者や社会保険料控除など、女性の就業調整につながる税制などの抜本的な見直し案を示しました。
<日本の現状の対応>
2022年10月から、厚生年金の被保険者数が101人以上の企業等で週20時間以上働く短時間労働者の場合、年収が106万円以上になることで、社会保険加入の義務が生じ、給与から社会保険料が天引きされるため、手取り額が減少してしまうことを「106万円の壁」といいます。2024年10月からは、その範囲が、厚生年金の被保険者数が51人以上の企業等に拡大されます。手取り額の減少を避けるため、パート従業員の働き控えや就業調整などが生じ、企業の人材不足の大きな原因の一つとなっています。
年収106万円の壁を撤廃するため、政府は、キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」を新設し、労働者の賃上げに取り組む企業を助成することで、年収106万円の壁を気にすることなく働ける環境づくりを支援します。
具体的には、労働時間の延長や手当などにより労働者の収入を増加させ、その結果、新たに社会保険の加入義務が生じた場合に、労働者一人当たり最大で50万円を事業主に支給します。 詳しくは、パートナーニュース2023年11月号をご覧ください。
「人間力」は、仕事で成果を出したり、リーダーシップを発揮していく上で磨いておくべき能力の一つです。この「人間力」については、スポーツ界でも注目されており、WBCで日本チームの優勝に貢献した大谷翔平選手の人間力の高さが話題になったことはご存じの通りです。
このように「人間力」とは、近年よく使われる言葉ですが、具体的にどのような力なのでしょうか?この特集では「人間力」の本来の意味を理解し、それを高める方法について下記の要素のうち「社会・対人関係力的要素」を中心に、数回にわたり解説していきたいと思います。
内閣府「人間力戦略研究会報告書」が定義する「人間力」の要素
内閣府が2003年4月に公開した「人間力戦略研究会報告書」では、人間力に関する確率した定義は必ずしもないが「社会を構成し運営するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」と定義したいとしています。
具体的には、人間力をその構成要素に着目するならば、
①「基礎学力(主に学校教育を通じて修得される基礎的な知的能力)」、「専門的な知識・ノウハウ」を持ち、自らそれを継続的に高めていく力。また、それらの上に応用力として構築される「論理的思考力」、「創造力」などの知的能力的要素
②「コミュニケーションスキル」、「リーダーシップ」、「公共心」、「規範意識」や「他者を尊重し切磋琢磨しながらお互いを高め合う力」などの社会・対人関係力的要素
③ これらの要素を十分に発揮するための「意欲」、「忍耐力」や「自分らしい生き方や成功を追求する力」などの自己制御的要素 などがあげられ、これらを総合的にバランス良く高めることが、人間力を高めることと言えるでしょう。
また、人間力は、それを発揮する活動に着目すれば、以下の3つに分類されます。
- 1) 職業人としての活動に関わる「職業生活面」
- 2) 社会参加する市民としての活動に関わる「市民生活面」
- 3) 自らの知識・教養を高め、文化的活動に関わる「文化生活面」
[2024年1月25日]