拡充されたキャリアアップ助成金「正社員化コース」
不本意非正規雇用者の正規転換比率は7.4%にすぎない
帝国データバンクが2023年10月に実施した「人手不足に対する企業の動向調査」によると、2023年10月時点における全業種の従業員の過不足状況について、正社員が「不足」と感じている企業は52.1%と、前年同月比で1.0ポイント上昇しており、10月としてはこれまで最も高かった2018年(52.5%)に次ぐ高水準を記録しました。
一方で、リクルートワークス研究所によると、正社員になりたい非正規社員(不本意非正規雇用者)のうち、正社員になったのは7.4%で、調査を始めた2016年から横ばいのままです。
過去最高に?!正社員の人手不足は52.1%
非正規雇用者の正規転換比率が7~8%と低く、国が推進するパートや派遣労働者の正社員化が思うように進んでいないことがわかります。総務省によれば、非正規雇用者は2022年には2101万人となり、前年より26万人増えました。正社員は、1万人の増加にとどまり、雇用者全体に占める非正規の割合は36.9%まで上昇しました。
企業は、正社員を求めていないのでしょうか?帝国データバンクが2023年10月に行った「人手不足に対する企業の動向調査」によると、正社員の人手不足企業の割合は52.1%となりました。業種別ではインバウンド需要が好調な「旅館・ホテル」(75.6%)がトップとなり、エンジニア人材の不足が目立つ「情報サービス」も72.9%で続きました。また、2024年問題が懸念されている建設/物流業でも、それぞれ7割近くに達しました。
エン・ジャパンの転職サイトを通じた正社員から正社員への転職数は、2022年に5年前の4倍となりました。人手不足の解消に向けて正社員を求める企業は多いのに、非正社員は選ばれにくいことがわかります。
企業にとって正規は非正規よりも待遇が手厚いうえ、長期雇用が前提となります。ビジネススキルの教育も正社員のみに施すことが多く、非正規からの転職者を採用しようにも求める技能と見合った人材が少ないのが現状のようです。また、「年収の壁」の問題もあり、世帯収入を減らさないよう非正規のままでいることを選ぶ人もいます。
非正規から正規!!国の後方支援、助成金が大幅拡充
国は2013年度から非正規を正社員にする企業へ助成(キャリアアップ助成金「正社員化コース」)を始め、正規への転換を支援してきました。2023年度は中小企業に1人57万円、大手企業で約42万円を支給しています。2022年度までに計78万人が支給の対象となりました。国は、さらに転換を促進させるため、2023年11月から、キャリアップ助成金「正社員化コース」を拡充し、助成額を見直すとともに、対象となる有期雇用労働者の要件を緩和しました。具体的には以下の通りです。
「キャリアアップ助成金」は、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取り組みを実施した事業主に対して助成金を支給する制度です。
■正社員化コースとは
有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換等をした場合に助成金を支給します。
【2023年11月29日以降における変更点】
(1)助成金(1人当たり)の見直し <拡充>
支給対象期間が「6か月」から「12か月」に拡充。それに伴い、6か月あたりの助成額を見直します。
企業規模 | 2023年11月28日まで | 拡充後 |
---|---|---|
中小企業 | 57万円 | 80万円 |
大企業 | 42.75万円 | 60万円 |
※2023年11月28日まで/中小企業:1期(6か月)で57万円助成
※拡充後/中小企業:2期(12か月)で80万円助成(1期あたり40万円)
※上記金額は、有期から正規の場合の助成額。無期から正規の場合は上記の半額。
※1人目の正社員転換時には、(3)または(4)の加算措置あり。
(2)対象となる有期雇用労働者の要件緩和 <拡充>
対象となる有期雇用労働者の雇用期間を現行の「6か月以上3年以内」から「6か月以上」に緩和します。
対象となる有期雇用労働者の雇用期間 | 2023年11月28日まで | 拡充 |
6ヶ月以上3年以内 | 6ヶ月以上 |
(3)正社員転換制度の規定に関する加算措置 <新設>
新たに正社員転換制度の導入に取り組む事業主に対する加算措置を新設します。
正社員転換制度を新たに規定し、 当該雇用区分に転換した場合 事業所当たり加算額(1事業所当たり1回のみ) |
新設 |
20万円(大企業15万円) 1人目の転換時に(1)+(3)で 合計100万円(大企業75万円)助成 |
(4)多様な正社員制度規定に関する加算措置 <拡充>
多様な正社員(勤務地限定・職務限定・短時間正社員)制度規定に関する加算額を増額します。
「勤務地限定・職務限定・短期間正社員」制度を新たに規定し、当該雇用区分に転換等した場合事業所当たり加算額(1事業所当たり1回のみ) | 2023年11月28日まで | 拡充 |
9.5万円 (大企業7.125万円) |
40万円(大企業30万円) 1人目の転換時に(1)+(4)で 合計120万円(大企業90万円) 助成 |
キャリアアップ助成金を利用するためには、事前にキャリアアップ計画書を管轄の都道府県労働局へ提出することが必要です。キャリアアップ計画様式・申請様式は、下記よりダウンロードしてください。
(3)、(4)の加算措置について、「正社員転換制度」または「多様な正社員制度」を新たに設けた日と当該雇用区分に転換した日のいずれも同一のキャリアアップ計画期間に含まれている必要があります。
法令で定められる非正規労働者の正社員転換措置について
(1)正社員転換措置
会社が従業員をどのような雇用形態で雇入れるかは自由ですが、パートタイム・有期雇用労働法では短時間労働者や有期契約労働者(以下「非正規労働者」という)に対し、通常の労働者(正社員)へ転換する措置を設けることを義務付けています。具体的に、以下の①~④のいずれかを実施することが必要です(パートタイム・有期雇用労働法13条)。
- ①正社員を募集する場合、その募集内容を対象者に周知する
- ②正社員のポストを社内公募する場合、対象者にも応募する機会を与える
- ③正社員へ転換するための試験制度を設ける
- ④その他正社員の転換を推進するための措置を講じる
(2)転換措置の周知方法
正社員転換措置は、会社が講じている措置の内容を、非正規労働者にあらかじめ周知することが求められます。周知方法としては次のようなものがあげられます。
- ①就業規則に記載する
- ②労働条件通知書に記載する
- ③事業所内の掲示板で掲示する
- ④社内で資料を回覧する
- ⑤社内メールやイントラネットで告知する
- ⑥給与明細に資料を同封する
◆無期雇用パートタイム:41.8%
◆有期雇用パートタイム:42.2%
◆有期雇用フルタイム:50.1%
実際の転換希望者は25~35%程度、転換した割合は15~25%程度でした。
(3)運用時の注意点
正社員の採用が新規学卒者のみとなっているような会社では、応募できる人が限定されているため、正社員転換措置を講じているとはいえません。また、(1)③の措置を設けている場合、正社員への転換や受験する要件として、勤続年数や資格等を設けることがあります。事業所の実態に応じていれば問題ないものの、必要以上に厳しい要件を設けている場合、措置を講じているとは認められない場合もあります。
[2024年2月25日]